発毛司令塔のエネルギー源に迫る! 〜毛乳頭細胞内で分子モーターによって輸送されるミトコンドリア〜

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発毛司令塔のエネルギー源に迫る!
〜毛乳頭細胞内で分子モーターによって輸送されるミトコンドリア〜

生物が生命活動を維持するにはエネルギーが必要です。 生体内のエネルギー通貨として知られるのがATP ( アデノシン三リン酸、
Adenosine Triphosphate ) と言われる生体物質です。 そのATPはミトコンドリアという細胞小器官で作られます。 ATPが産生
される際には酸素が消費される為、ミトコンドリアは細胞内における「呼吸の場」とも言われています。
サラヴィオ中央研究所では、各種細胞系における活性制御機構の解明の一環として、 ミトコンドリアに焦点を当てた研究を展開
しています。



発毛の立役者である毛乳頭細胞の研究においては、最近、一次繊毛の可視化 に続いて、繊毛が毛母細胞や線維芽細胞の細胞分裂に重要な役割を担うことを明確にし、 新規育毛活性化機構を提唱しました。「日本皮膚外科学会総会・学術集会」 にて学術発表
中央研究所では、さらなる理論を構築する為に、細胞のエネルギーを生み出すミトコンドリアにも注目しています。

<図1 毛包の模式図>
毛乳頭細胞は、毛包の最下部で発毛シグナルを出し、 ヘアサイクルを制御している


< 図2 毛乳頭細胞内のミトコンドリア>
細胞内エネルギーを生み出すミトコンドリアが輸送される様子
(写真撮影: サラヴィオ中央研究所 御筆千絵 研究員)

右の写真は、毛乳頭細胞の中を蛍光顕微鏡で観察した様子です。
核は青色ミトコンドリアは橙色、そして、微小管と呼ばれるタンパク質をで見えるように特殊な処理を施しています。

細胞の情報であるDNAを蓄えた核(青)が見えます。
この中に詰まった遺伝情報がタンパク質へと形を変えて、様々な機能を
発揮します。 ATP合成を行うミトコンドリア(橙)は点在し、その位置は一見、無秩序に見えますが、良く見てみると、そうでないことが分かります。

ミトコンドリア(橙)微小管(緑)と呼ばれるレールタンパク質の上に並んでいます。



<図3 ミトコンドリア輸送>
ミトコンドリアは分子モーターキネシンによって
微小管に沿って細胞の周囲へ向かって運ばれる
なぜ、微小管の上にミトコンドリアが並んでいるのでしょうか?
実は、ミトコンドリアは、その機能を細胞の隅々で発揮する為にキネシンという分子モータータンパク質によって細胞の周囲に向かって運ばれています(図3)。

微小管には方向性があり、キネシンも決まった方向にしか進むことができないので、 ミトコンドリアが行き先を間違えることはありません。

ミクロの世界では、このような厳密な制御のもとで生命活動が営まれています。

(尚、キネシンが二足歩行で運動する事を世界で初めて証明したのが、当研究所所長の加世田で、その業績は世界で語り継がれています。)



当研究所では、ミトコンドリアのエネルギー生産の実態を明らかにする為に、ミトコンドリアのライブイメージングに挑戦しています。そして遂に、生きた毛乳頭細胞内でミトコンドリアが輸送されている現場をとらえることに成功しました<動画1>。

毛乳頭細胞の中で白くてミミズのようなものが動いている様子が分かります。これがミトコンドリアです。
このような動画の撮影に成功したことにより、毛乳頭細胞内におけるミトコンドリア輸送の実態が見えてきました。

<動画1 毛乳頭細胞内のミトコンドリア輸送>
エネルギー産生装置であるミトコンドリアが分子モーター によって輸送されている様子


左図<図4>は、いくつかのミトコンドリアの位置を時間に対してプロットしたものです。 基本的に、ミトコンドリアは同じ方向(グラフの上方向)に向かって動いているのが分かります。この運動には、キネシンという分子モーターが関与していると考えられます。しかし、時折、逆方向(グラフの下方向)への運動も見られます(赤矢印)。これは、微小管上を逆方向に運動するダイニンによるものであると推測しています。
<図4 ミトコンドリアの位置の経時変化>
ミトコンドリアは基本的に一方向に輸送されるが、 時折、後戻りしている。


ミトコンドリア輸送の実態を解明する為に、更に解析を進めてみました。

左図<図5>のように、各々のミトコンドリアの瞬間運動速度の経時変化を見ると、速度が目まぐるしく変わっている様子が分かります。また、逆向きに動く事もあり(マイナス値で表示)、時間と共に運動モードが変わっていることが推測されます。

<図5 ミトコンドリアの輸送速度の経時変化>
ミトコンドリアの瞬間輸送速度が目まぐるしく 変わっている。
注)速度のマイナス値は逆向きの輸送


左図<図6>は、ミトコンドリアの運動速度のヒストグラム解析です。 ミトコンドリア運動の大半は、キネシン(緑)によるもので、それにダイニン(赤)の運動が拮抗しているようです。 両者がバランスを保った場合には、黄色で示すように運動速度がゼロになることが推測されます。 キネシンによる運動速度は、平均すると186±41nm/secで、ダイニンによるものは130±87nm/secでした。1秒間に、約0.0000001メートル移動するというナノワールドの世界です。

<図6 ミトコンドリア輸送の速度分布>
ミトコンドリアの運動速度はキネシン運動(緑) とダイニン運動(赤)から成りたっている。 両者が釣り合った場合には、運動速度がゼロになると考えられる(黄色)


<図7 キネシン・ダイニンバランスモデル>
キネシンとダイニンの巧妙な連携によりミトコンドリアが輸送される
このように、ミトコンドリアの運動を可視化し、 一つ一つの運動を定量解析することで様々なこ とが見えてきます。

ただし、まだまだ解明されていない多くの謎が残されています。
キネシンとダイニンによる運動のスイッチはどのように調節されているか?その制御は、細胞にとってどのような意味があるかなどです。

私たちはこのような課題に取り組むことで、細胞内のエネルギー産生機構の全容解明を目指すと共に、ヘアケア、スキンケア、そして、ミトコンドリアが関係する様々な疾患(ミトコンドリア病)に向けた応用研究を進めています。


 

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